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言ったとおりに動かない人たち

会社経営や組織運営をしていると、
「きちんと伝えたはずなのに、なぜこうなるのだろう」
と感じる瞬間があるのではないでしょうか。

「言ったとおりにやってくれればいいだけなのに・・・」

説明した。
情報も共有した。
決して場当たり的ではない。
無茶な要求もしていない。

それでも、返ってくる行動は、どこか噛み合わない。
こちらの想定とは違う方向に、物事が進んでいく。

このとき、多くの人は「人」に原因を求めます。
理解力が足りないのではないか。
主体性がないのではないか。
スキルを持っていないのではないか。
やる気の問題ではないか。

けれど本当に、問題はそこにあるのでしょうか。

このブログでは、「言ったとおりに動かない」という現象を、
人の資質や性格ではなく、
コミュニケーションと組織の構造として捉え直します。

なぜ、言ったとおりに動いてくれないのか

そもそも、人は「言われた内容」をそのまま実行しているのでしょうか。

実際にはそうではありません。

人は必ず、与えられた情報を自分なりに解釈してから行動します。
その解釈には、これまでの経験、立場、役割、成功した記憶、失敗した記憶が強く影響します。

同じ言葉であっても、
ある人には「期待」や「信頼」として届き、
別の人には「プレッシャー」や「責任の押し付け」として届く。
ここで起きているのは、どちらが正しいかという問題ではありません。

重要なのは、
こうしたズレは起こるものだという前提です。

にもかかわらず、発信する側は無意識のうちに、
「言ったのだから、わかっているはずだ」
「説明したのだから、伝わっているはずだ」
という前提で考えています。
この前提がある限り、相手がどう受け取ったかを確認することはありません。

その結果、
発信側の中では「伝えた」
受信側の中では「そうは受け取っていない」
という認識の違いが残ったまま進みだし、
「言ったとおりに動いてくれない」という結果が残ります。

ここで起きているのは、
人の資質の問題ではなく、
コミュニケーションの前提のズレの問題なのです。

組織でも起きていること

個人の問題に見えがちなこの問題は、会社という「組織」の中で起きている現象でもあります。
ここからは、組織という枠組みで起きていることにも目を向けてみましょう。

人が2人以上集まると、組織が生まれます。
そして組織が生まれるとき、必ず起きるのが「基準づくり」です。

何を優先して判断するのか。
どこまで踏み込んでいいのか。
失敗と見なされるラインはどこなのか。

こうした基準は、就業規則やマニュアルにすべて書かれているわけではありません。
むしろ多くの場合、社長や上の立場の人の言葉や態度、判断の積み重ねから、それを読み取っています。

たとえば、会議でどの意見が拾われるのか。
厳しく指摘されるのはどんな場面なのか。
逆に、容易に承認されるのはどんな判断なのか。
そうした日常のやり取りを通じて、「この場では、こう動くのが安全だ」「ここまでは踏み込んでいい」という感覚が、少しずつ暗黙のルールとして共有されていきます。

重要なのは、誰かが示し合わせたわけでもないのに、
日常のやり取りの中で、言葉や態度がそれぞれの解釈を通して受け取られ、その受け取られ方が少しずつ積み重なっていく、という点です。

ほとんどの場合、社長や上の人は、その影響を意識していません。
何気ない一言や反応が、意図とは違う意味として受け取られていることにも、気づかないまま進んでいきます。

こうして、それぞれの解釈を通して形成された感覚により、
「この会社では、こう動くのが正解なのだ」という共通した基準を作り上げていきます。

その結果、明確な指示がなくても、組織のメンバーの判断は似通っていきます。
誰かが号令をかけなくても、判断の方向性が揃っていく。
人の行動が一定の方向に収束した状態を、私たちは組織と呼んでいるとも言えるでしょう。

つまり、組織が思ったとおりに動かないと感じるとき、
そこには「人が勝手に動いている」というよりも、
それぞれが自分なりに読み取った基準に忠実に動いているという構造があります。
この前提を押さえない限り、「なぜ伝わらないのか」という問いは、個人の問題にすり替わってしまいます。

発信側と受信側における認識のズレ

ここまで見てきたように、
「言ったつもり」と「受け取られた内容」のあいだには、しばしばズレが生じます。
ただ、この段階では、私たちはまだ
“認識がズレている”
という現象を確認しているにすぎません。

重要なのは、その原因です。
なぜ、このような認識のズレが起きるのでしょうか。

発信側は、自分の中にある前提を使って言葉を発します。
その言葉を選んだ理由、背景にある考え、過去の文脈。
それらを共有している前提で話してしまう。
一方、受信側は、その前提を持っていません。
自分の経験や立場、これまでの評価のされ方を通して、言葉を受け取ります。

ここで起きているのは、
人の理解力の問題ではありません。
また、意図的な誤解でもありません。

このような認識のズレが起こるのは、コミュニケーションの仕方に問題があるからです。

外部の立場で従業員面談を行っていると、この構造がはっきりと見える場面に、よく出会います。
面談の場には社長や上の人はいません。
評価や人事と切り離された状況で、社員は「どう受け取っているか」を率直に語ります。

その内容を整理し、後日、経営者や管理職に報告すると、
「そんな意味で言ったつもりはなかった」
「前向きに伝えたつもりだった」
という反応が返ってくることは少なくありません。

これは、どちらかが間違っているという話ではありません。
発信側も、受信側も、それぞれの立場で誠実に判断しています。
ただし、伝え方が、受け取られ方まで設計されていなかった。
その結果として、認識のズレが生まれているのです。

この前提に立たない限り、
問題はいつまでも「人の問題」に見えてしまいます。

コミュニケーションで変わること

ここまで見てきたように、
「言ったとおりに動かない」という現象は、人の資質や意欲の問題ではありません。
また、誰かが意図的に組織をおかしな方向へ動かしているわけでもありません。
起きているのは、伝えた内容と、受け取られた内容が一致していない――その一点です。

コミュニケーションの責任は、受け取る側ではなく、伝える側にあります。
相手がどう受け取るかまで含めて、はじめて「伝えた」と言える。
正しく受け取られなかったとしたら、それは相手の理解力の問題ではなく、伝え方の課題です。

この前提に立つと、取るべき対応は大きく変わります。
人を変えようとする必要はありません。
「分からせる」「意識を変える」といった方向に進むほど、相手は身構え、かえって距離が生まれます。
先に見直すべきなのは、こちらの伝え方です。たとえば、前提を言葉にしていないまま話していないか。背景や判断基準を省略していないか。結論だけ渡して、解釈の余地を広く残していないか。そうした点を点検するだけでも、受け取られ方は変わります。

人は、「言われたとおり」に動いているのではありません。
自分が受け取ったとおりに動いているだけです。
だからこそ、受け取られ方を想定しない伝え方では、どれだけ丁寧に説明したつもりでも、認識のズレは残ります。
このズレが積み重なると、「この会社では、こう動くのが安全だ」という基準が、発信側の意図とは別のかたちで出来上がってしまいます。

コミュニケーションを、感覚や経験則に任せないでください。
コミュニケーションは、才能ではなく、計画が可能であり、学び、整え、改善できるものです。

まずは、伝え方を見直してみてください。
それだけで、人の動き方は変わります。
その小さな変化の積み重ねが、結果として組織の動き方を変えていきます。

多くのズレは、相手そのものではなく、
「分かっているはずだ」「同じ前提に立っているはずだ」という
思い込みや勘違いから生まれています。

前提を取り払って相手に向き合い、
・自分は何を前提に話しているのか
・相手はどこまでを共有できているのか
・この言葉は、相手にどう受け取られる可能性があるのか

こうした点を一つずつ確認しながら伝えていく。
それが、コミュニケーションを「運任せ」にしないための、最初の一歩です。

完璧にできる必要はありません。
ただ、伝えるたびに少し立ち止まり、受け取られ方を想像する。
その積み重ねが、誤解を減らし、人の動き方を変えていきます。