トキシックワーカー(問題社員)への対処|放置しないために経営者が考えること
「あの社員の言動に、周りが疲弊している」
「注意しても変わらない。」
「職場の空気が悪くなっていく」
問題社員について悩みを抱えながらも、対応が後回しになってはいませんか。
もちろん、一人の社員への対応に、経営者や周囲の社員が多くの時間を取られ続ける状態は望ましくありません。
しかし、放置している間も、周囲の社員には負担がかかっています。
放置したせいで他の優秀な社員が辞めていくこともあります。
適切に対処するために必要なのは、事実に基づいて本人に対応することと、問題を見過ごしてきた会社の仕組みを見直すことです。この2点について整理します。
トキシックワーカーの特徴や背景については、「トキシックワーカー(有害社員)とは|“問題社員”の構造と向き合い方」でも紹介しています。
ここでは、問題が起きた後に経営者が考えることを、具体的に見ていきましょう。
1.問題行動を放置せず、周囲の社員を守る
「仕事はできるから」「悪気はないから」と、強い言い方や他人を傷つける行動を見過ごしていないでしょうか。
問題のある社員がいると、周囲の社員は次第にその人との関わりを避けるようになります。
わからないことがあっても質問しない。
伝えるべきことがあっても、話しかけるのをためらう。
結果として、必要な情報共有が遅れたり、仕事が一部の社員に偏ったりすることもあります。
経営者が見るべきなのは、その社員本人の問題だけではありません。
その存在によって、周囲の社員が必要なコミュニケーションを取れなくなっていないか、仕事が進みにくくなっていないかも確認する必要があります。
経営者が考えたいのは、その社員ひとりのことだけでなく、他の社員が安心して働けているかということです。
周囲への影響が出ているのであれば、「もう少し様子を見る」で済ませないことも大切です。
どの行動を問題とするのか、本人に何を改善してほしいのか、いつまでにどの状態を目指すのかを明確にします。そのうえで、改善が見られない場合にどう対応するのかまで、あらかじめ考えておきます。
問題社員への対応で経営者が疲弊するのは、その都度考え、その都度判断しているからでもあります。対応の基準を決めておくことで、感情ではなく、会社として対応しやすくなります。
一方で、会社への異論や改善提案、相性の悪さだけで、誰かを「トキシックワーカー」と決めつけてはいけません。見るべきなのは、具体的な言動と業務への影響です。
なお、威圧的な言動など、ハラスメントが疑われる場合は、通常の「問題社員への指導」とは分けて考える必要があります。
職場のパワーハラスメントについては、事業主に防止措置が義務付けられています。相談窓口などの体制を整え、相談があった場合には事実関係を確認し、必要な対応や再発防止を行うことが求められます。
「本人に注意して様子を見る」だけで済ませる問題ではない、ということも経営者は知っておく必要があります。
2.印象ではなく、事実と対応の記録を残す
「協調性がない」「いつも周囲に悪影響を与える」という表現だけでは、本人に何を改善してほしいのか伝わりません。
会社として判断するためにも、起きたことを具体的に整理します。
- いつ、どこで、どのような言動があったか
- 誰が直接確認した事実で、何が伝聞なのか
- 業務や周囲の社員に、どのような影響が出たか
- 会社が何を伝え、本人はどう説明したか
- その後、行動にどのような変化があったか
記録は、辞めさせるための材料集めではありません。
思い込みを減らし、本人の説明も踏まえて、公平に対応するためのものです。
確認できた事実と、会社側の解釈は分けて残しましょう。
記録を共有する範囲も、対応に必要な人に限ります。
3.改善してほしい行動を、具体的に伝える
「もっと協調性を持って」「態度を改めて」と伝えても、本人が何を変えればよいか理解しているとは限りません。
問題となった言動、その影響、今後求める行動を、具体的に伝える必要があります。
例えば、次のような場面があったとしましょう。(架空の事例です。)
営業成績のよい社員が、会議で同僚の提案を繰り返し遮り、「そんなことも分からないのか」と発言していました。
周囲は意見を出さなくなり、上司も「成績がよいから」と注意を避けています。
この場合、「言い方を優しくして」だけでは、改善の基準が曖昧です。
「相手が話し終わるまで聞く」
「反対意見は、相手の能力への批判ではなく、提案の内容と理由について述べる」
と、求める行動まで伝えます。そのうえで本人の認識を聞き、改善状況を確認する時期を決めます。
つまり、どうすべきなのかを具体的に伝えるのです。
本人の行動を見直すと同時に、業務の過負荷や役割の曖昧さなど、会社側に調整すべき点がないかも確認します。
背景を聞くことと、問題行動を許容することは別です。
対話をしても改善しない場合に、同じ注意だけを繰り返すのではなく、次の対応を検討できる状態にしておきます。
4.解雇を検討する場合は、判断と手続きを専門家に相談する
改善が難しい場合には、配置転換や雇用関係の終了を検討することもあります。
ただし、配置転換を含め、会社の裁量で何でもできるわけではありません。
契約内容や就業規則、これまでの対応などを確認する必要があります。
特に解雇は、「周囲が困っている」「経営者が辞めてほしいと思っている」という理由だけで進められるものではありません。
労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効になると定めています。
また、解雇には原則として30日前の予告、または予告期間の不足日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当が必要です。ただし、予告や手当の支払いをすれば、解雇が有効になるわけではありません。解雇の理由と手続きは、両方を確認する必要があります。
解雇や退職勧奨を検討する段階では、実行する前に、労働問題を扱う弁護士に相談してください。
問題行動の記録、指導の経過、本人の説明、雇用契約書、就業規則などを整理しておくと、状況を伝えやすくなります。退職を無理に迫る対応も避けなければなりません。
参考:厚生労働省 「労働契約に関する法令・ルール」、「労働契約法」。上記は一般的な考え方を整理したもので、個別の解雇の可否を判断するものではありません。
5.本人への対応と、組織の立て直しを両方進める
本人が改善した、配置が変わった、あるいは退職した。それで、会社の問題も終わるのでしょうか。
もう一つ確認したいのは、なぜ、その人の問題行動を会社として止められなかったのかです。
先ほどの例では、本人の発言に加え、上司が成績を理由に注意を避けていたことも課題です。
本人だけに対応しても、「成果を出せば、周囲を傷つける言動も見過ごされる」という扱いが残れば、似た問題が起きる余地は残ります。
- 何を問題行動と捉えるか、上司によって違っていなかったか
- 管理職は、自分が対応する範囲を理解していたか
- どの段階で、誰に相談するかが明確だったか
- 社長しか判断基準を持っておらず、対応が止まっていなかったか
- 相談や報告をした社員に、会社が対応したことを伝えられていたか
「管理職が頼りない」で終わらせず、管理職が判断できる条件を整える必要があります。
日常の指導は誰が行い、重大な問題は誰に相談するのか。
会社として何を許容せず、何を大切にするのか。
それを現場の事実に照らしながら、経営者と管理職の間で共有していきます。
判断基準は、一つの標語を掲げれば共有できるものではありません。
実際の場面について対話し、「なぜその対応を選ぶのか」を確かめることで、使える基準にしていきます。
解雇など経営者や専門家が判断すべきことと、管理職が現場で対応できることも分けておきます。
経営者の考えを現場の共通認識にする視点は、「正論だけでは、現場はついてこない」でも紹介しています。
トキシックワーカーへの対処は、本人に注意して終わりでも、仕組みを変えるだけでも十分ではありません。
具体的な言動に対応し、必要な法的判断は弁護士に相談する。
そのうえで、役割・判断基準・コミュニケーションを見直す。
この両方が、周囲の社員を守り、会社を立て直すために必要です。
ミュウパートナーズでは、現場で起きている事実から、役割や判断、コミュニケーションのズレを整理し、現場や管理職が対応できる組織づくりを支援しています。
「問題が起きるたびに社長が対応している」
「注意しても同じような問題が繰り返される」
という状況であれば、会社側に残っている課題を一緒に整理しませんか。